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広島地方裁判所 昭和56年(ワ)549号 判決 1982年5月26日

主文

一  被告は、原告山田尚宏、同山田ヨシ子に対し、各五八二万八一一七円及び右各金員のうち各五三二万八一一七円に対する昭和五五年一二月七日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告山田尚宏、同山田ヨシ子のその余の請求および原告山田尚利の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告山田尚宏および同山田ヨシ子の負担とする。

四  この判決は主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告山田尚宏、同山田ヨシ子に対し各一六一〇万六四五〇円及び内各一五一〇万六四五〇円に対する昭和五五年一二月七日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告山田尚利に対し一〇〇万円及びこれに対する昭和五五年一二月七日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五五年一二月四日午後一時二五分ころ

(二) 場所 広島市中区大手町四丁目六番二四号所在の交差点

(三) 加害車 普通乗用自動車(広島五六る二〇〇〇)

(四) 運転者 被告

(五) 被害者 山田真弘

(六) 事故の態様 被告は、加害車を運転して国道二号線を西から東に向つて進行中、本件事故現場である信号機により交通整理の行なわれている前記交差点にさしかかり、進路の対面信号が赤色を表示しているにもかかわらず高速度のまま直進したため、折から横断歩道上を青信号に従い南から北に向つて横断中の被害者に加害車を衝突させたものである。

(七) 受傷内容 被害者は本件事故により全身打撲、脳挫傷、頭蓋底骨折の傷害を負い、昭和五五年一二月六日午後五時二五分、広島市中区国泰寺町所在の一ノ瀬病院において死亡した。

2  責任原因

(一) 被告は加害車を保有し自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車賠償保障法第三条の運行供用者としての責任を負うものである。

(二) 被告は前記日時に加害車を運転して前記交差点に差しかかつた際、赤色を表示している対面信号に従つて交差点手前で停止すべき義務があるにもかかわらず、右信号を無視して高速度で進行した過失により本件事故を発生させ、山田真弘を死亡するに至らせたものであるから、民法第七〇九条に基づく責任がある。

3  損害

(一) 入院付添費 一万八〇〇〇円

山田真弘が入院中の昭和五五年一二月四日から同月六日までの三日間、その両親である原告山田尚宏(以下原告尚宏という)、同山田ヨシ子(以下原告ヨシ子という)が仕事を休んで被害者に付添つたので、一人一日三〇〇〇円の割合で各九〇〇〇円、合計一万八〇〇〇円を請求する。

(二) 入院雑費 三〇〇〇円

原告尚宏、同ヨシ子は、被害者の前記入院期間中少なくとも各一日五〇〇円あての雑費を費した。その合計額は三〇〇〇円である。

(三) 葬儀費用 七〇万円

原告尚宏、同ヨシ子は真弘の葬儀費用として一五四万六六二〇円の支出を余儀なくされたので、被告に対し右のうち七〇万円(各三五万円)を請求する。

(四) 真弘の逸失利益 三九〇九万三〇〇〇円

真弘は、本件事故当時国泰寺中学校二年生の健康な男子で、生存していたならば一八歳から六七歳までの四九年間は就労可能であるところ、賃金センサス昭和五四年第一巻第一表による企業規模計男子労働者高卒の一八歳から六七歳までの年齢帯に応じた平均年間現金給与額から、それぞれその四〇パーセントを生活費として控除し、それらを死亡時において一時に請求するものとしてホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除すると、真弘の逸失利益現価合計は三九〇九万三〇〇〇円(一〇〇円未満切り捨て)となる。

なお、原告尚宏は真弘の父、原告ヨシ子はその母として相続により真弘の被告に対する右逸失利益の損害賠償請求権を各二分の一の割合で取得した。

(五) 慰謝料

(1) 原告尚宏、同ヨシ子各五〇〇万円

真弘はスポーツ万能の中学生で、学校では野球部員として活躍し、非常に明朗、闊達な少年であつた。原告ら両親はこの最愛の息子を失い、一時共にノイローゼ状態に陥つた。これらの事情を考慮に入れれば、本件事故による原告尚宏、同ヨシ子の慰謝料は、各五〇〇万円が相当である。

(2) 原告尚利一〇〇万円

原告尚利はたつた一人の弟を失つた。これに対する慰謝料は一〇〇万円が相当である。

(六) 弁護士費用 二〇〇万円

原告らは本訴追行のため弁護士に訴訟委任し、着手金として既に五〇万円を支払い、成功報酬として認容額の一割を支払う旨約している。右弁護料のうち二〇〇万円は被告において支払うべきものである。したがつて、原告尚宏、同ヨシ子は弁護士費用として各一〇〇万円ずつ請求する。

4  損害の填補

原告尚宏及び同ヨシ子は真弘の死亡により自動車損害賠償保険金一九六〇万一一〇〇円を受領し、各九八〇万五五〇円ずつをそれぞれの損害賠償請求権に充当した。

5  よつて、被告に対し、原告尚宏、同ヨシ子は、それぞれ第三項(一)ないし(三)、(五)(1)、(六)の各損害及び同(四)の各相続額の合計額から前項の充当額を控除した一六一〇万六四五〇円、及び弁護士費用を除く一五一〇万六四五〇円に対する本件不法行為による損害発生後である昭和五五年一二月七日から、原告尚利は、第三項(五)(2)の慰謝料一〇〇万円及びこれに対する右同日から、いずれも支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の各事実については、(六)を否認し、その余を認める。

2  同2の各事実については(一)を認め、(二)を否認する。

3  同3の事実はすべて争う。

4  同4の事実は認める。

三  抗弁(過失相殺)

本件事故は、被告が、対面信号が黄色の状況で交差点に入り、右折待ちのため交差点内に停車していた大型貨物自動車の横を進行して交差点を通過しようとしたとき、右大型貨物自動車の蔭から横断歩道を疾走してきた被害者と衝突したものである。このような場合、被害者としても、渋滞した車両の蔭から進行する車があるかも判らないのであるから、大型貨物自動車の蔭へ走つて出るときは、一時速度をゆるめて様子をうかがうなどして事故を防止すべき義務があつた。被害者が右義務を尽していれば、仮に衝突が避けられなかつたとしても、少くとも衝撃は少なく、死亡事故にはならなかつたと考えられる。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の態様

1  請求原因1の本件事故の発生に関する事実のうち、(六)の事故の態様を除き、その余の事実は当事者間に争いがない。

2  そこで、本件事故の態様につき判断するに、成立に争いのない甲第九号証、同一〇号証、同一四号証の一、二、同一八号証、同二〇号証、被告本人尋問の結果を総合すれば次の各事実が認められ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

(一)  本件事故現場は、新明治橋(西方)から広島市役所方面(東方)に向う片側四車線の見通しのよい交差点であるが、本件事故当時は最も中央寄りの車線がかなり渋滞しており、交差点内の東詰め横断歩道手前にも右交差点から抜け出せない大型貨物自動車が一台停車している状況であつた。

(二)被告は、前記新明治橋付近から広島市役所方面に向けて時速約三〇キロメートルで同交差点に差しかかり、同交差点の信号機による対面信号が黄色表示であつたにもかかわらず、時速約二〇キロメートルで右交差点に進入し、前記信号が赤色表示に変わつたのに、横断歩行者の動静に注意を払うことなく漫然前記大型貨物自動車の左側を通つて同交差点を通過しようとした過失により、右横断歩道の歩行者用信号が青色表示に変わると同時に横断歩道を南から北へいつさんに走り抜けようとし、右大型貨物自動車の蔭から飛び出して来た真弘に自車右前部を衝突させ、同人を転倒させた。

二  責任原因

被告が本件事故当時加害車を自己のために運行の用に供していた者であることは当事者間に争いがないので、被告の前記過失責任を問うまでもなく、被告には本件事故によつて生じた損害について自賠法三条に基づいてこれを賠償する責任がある。

三  損害額について

1  逸失利益

成立に争いのない甲第四号証、甲第一八号証および弁論の全趣旨によれば、真弘は本件事故当時、満一二歳の健康な男児であり、本件事故により死亡しなければ、一八歳から六七歳までの四九年間は稼働することができたものと認められ他に右認定を左右するに足りる資料はない。

そして、労働省労働統計調査部作成の昭和五四年度賃金構造基本統計調査(賃金センサス)による男子労働者産業計、企業規模計、学歴計の平均月間給与額及び特別給与額をもとに、ベースアツプを考慮して計算すると、昭和五五年度の全年齢平均給与額(含臨時給与)は二八万一六〇〇円と認められるので、真弘は一八歳から六七歳まで年間平均三三七万九二〇〇円の収入を得ることができるものと推認され、そのうち二分の一を生活費に要するものとしてこれを控除し、その総額の死亡時における現価を、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して算出すると、真弘の失つた得べかりし利益は二二九〇万七二五八円となる。

(3,379,200/2×(18.6334-5.0756)=22,907,258

なお、成立に争いがない甲第三号証によれば真弘の相続人が同人の父である原告尚宏、同じく母である同ヨシ子であることが認められるので、真弘が失つた右得べかりし利益の賠償請求権を右原告両名が各二分の一ずつ相続により取得したものと認めることができる。

2  入院付添費及び入院雑費

成立に争いのない甲第一三号証、同第一八号証によれば、真弘は事故直後意識不明となり広島市中区国泰寺町所在の一ノ瀬病院に入院中の三日間は付添を要したことが認められ、その付添費は一日三〇〇〇円合計九〇〇〇円とするのが相当である。また、右三日間の入院期間中の入院雑費は一日一〇〇〇円合計三〇〇〇円とするのが相当である。そして、右付添費及び雑費は原告尚宏・同ヨシ子が各二分の一ずつ負担したものと認められる。

3  葬儀費用

原告尚宏の供述により真正に成立したものと認められる甲第五号証の三ないし一七によれば、原告尚宏及び同ヨシ子は、真弘の葬儀に少なくとも一二七万円の支出を余儀なくされたことが認められるが、経験則上葬儀費用については七〇万円が相当であるので、原告尚宏および同ヨシ子各三五万円の限度でこれを認容する。

4  慰謝料

前記甲第四号証、同一八号証、原告尚宏の供述により真正に成立したものと認められる甲第八号証、原告尚宏本人尋問の結果を総合すれば、真弘は学校では野球部員として活躍し、学習態度は真面目で級友からも好感をもたれる明朗・闊達な少年であつたこと、原告尚宏、同ヨシ子は真弘の将来に大きな期待を抱いていたこと、その真弘を本件事故で失つたことにより右両名が多大な精神的苦痛を被つたことが認められ、その他弁論の全趣旨から認められる一切の事情(ただし、被害者の落度の点は後記過失相殺として一括斟酌する。)を斟酌すると、右精神的苦痛に対する慰謝料は原告尚宏および同ヨシ子につき各五〇〇万円と認めるのが相当である。

なお、不法行為により生命が侵害された場合において被害者の兄弟の慰謝料請求が認められるためには、被害者と請求者の間に何らかの特別の事情が存することが必要と解すべきところ、本件では被害者には父母がおり、他に特段の事情の立証はないので、原告尚利の慰謝料請求は失当である。

5  過失相殺

本件事故は前認定の被告の過失に起因するものであることは明らかである。しかし、他方真弘においても、前記のとおり歩行者用信号表示が青色に変わると同時に横断歩道を走つて渡ろうとしたものであるが、右横断歩道手前の交差点には大型貨物自動車が渋滞停止しているために道路の見通しが悪い状況であつたことは前記認定のとおりであるから、真弘としても、右大型車の蔭から横断歩道を横切つて進行してくる車両がないかどうか一応の安全確認をしながら横断すべきであつたのに、それをなすことなく、横断歩道をいつさんに走つて渡ろうとした点に落度が認められる。そして、真弘の右落度は損害額の算定にあたり斟酌すべきものであつて、その減額割合は一割とするのが相当である。

6  損害の填補

原告尚宏および同ヨシ子が真弘の死亡により自動車損害賠償金一九六〇万一一〇〇円を受領し、各九八〇万〇五五〇円ずつをそれぞれの損害賠償請求権に充当したことは当事者間に争いがない。

7  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告らは本訴訟の提起、追行を原告訴訟代理人に委任し、既に着手金として五〇万円を支払つていることが認められるところ、本件事案の内容、審理の経過、認容額に鑑みると、本件交通事故と相当因果関係にある弁護士費用は一〇〇万円(原告尚宏、同ヨシ子各五〇万円ずつ)と認めるのが相当である。

四  よつて、原告らの本訴請求は、原告尚宏および同ヨシ子が被告に対し、各五八二万八一一七円及び右金員のうちから弁護士費用各五〇万円を控除した五三二万八一一七円に対する昭和五五年一二月七日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、原告尚宏および同ヨシ子のその余の請求および原告尚利の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 篠森真之)

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